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静岡家庭裁判所浜松支部 平成5年(少)1265号 決定

少年 R・S(1975年1月6日生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

1  少年は、Aと共謀のうえ、平成5年8月27日午前2時0分ころ、静岡県磐田郡○○町○○××番地の×所在のサーフショップ○○店において、同店経営者B(当時39歳)が所有するサーフボード4枚他155点位(時価合計97万6000円相当)を窃取したものである。

2  少年は、公安委員会の運転免許を受けないで、平成5年8月18日午後5時0分ころ、静岡県浜松市○○町××番地の×付近道路において、普通乗用自動車を運転したものである。

3  少年は、

(1)  A及びCと共謀のうえ、平成5年8月16日午前2時0分ころ、静岡県磐田市○○××番地所在の○○株式会社○○店において、同社代表取締役D(当時42歳)の管理する現金3万円、レジスター1個ほか621点(時価合計203万5000円相当)を窃取し

(2)  A及びCと共謀のうえ、平成5年8月16日午前5時0分ころ、静岡県袋井市○○××番地の×所在のスナック「○○」店内において、同店経営者E(当時43歳)が所有する現金5450円、手提金庫1個(時価500円相当)を窃取し

(3)  Aと共謀のうえ、平成5年8月20日午前0時0分ころ、浜松市○○町××番地F(当時36歳)方北側駐車場において、同人所有の普通貨物自動車(○○××○××××)1台ほか3点(時価合計100万4300円相当)を窃取し

(4)  A及びGと共謀のうえ、平成5年8月21日ころの午前5時0分ころ、静岡県榛原郡○○町○○××番地所在の株式会社○○所有の廃車置場において、同社代表取締役H(当時55歳)が管理するナンバープレート(○○××○××××)2枚を窃取し

たものである。

(法令の適用)

1、3刑法235条、60条

2  道路交通法64条、118条1項1号

(罪となるべき事実についての当裁判所の判断)

1  少年は、罪となるべき事実3(3)について自己の責任を否定しているが、次に述べるとおり、窃盗の共同正犯の責任を負うものである。

2  少年の審判における供述及び送致記録によると、次の事実を認めることができる。

少年は、公安委員会の運転免許を受けていないにもかかわらず、日本において普通乗用自動車(罪となるべき事実2で使用したもの)を購入し、乗り回していたが、平成5年8月18日、浜松市内で交通事故を起こし(同2の事実)、これを破損させてしまった。そこで、少年は、翌8月19日ころ、足代わりに、浜松市内で自転車を盗み、これを乗り回していた。なお、少年は、上記所有車両を、浜松市○○町の空き地(天竜川沿い、東海道線より南側)に置いていた。

少年は、8月19日午後10時ころ、上記自転車に乗って、○○駅南口付近を徘徊していた際、Aと出会った。そして、Aは、少年に対し、鍵の付いた自動車を見つけて盗もうと誘った。Aも、それまで少年の所有車両を足代わりにしていたので、新たな交通手段を得ようと考えていたのである。少年もAの誘いにのり、同人と行動を共にすることになった。

少年らは、ともに本件犯行現場であるF方の駐車場に至った。そこには数台の車両が駐車してあったので、Aは、これらを物色し、鍵の付いていた本件被害車両を発見し、これに乗り込み、自ら運転して窃取した。なお、Aは、少年が見張りをしているものと考えて行動していた。

この間、少年は、近くで、Aが車両を物色しているのを見ており、同人が本件被害車両を窃取すると、それまで自分たちが乗っていた自転車は不要になったので、近くに放棄した。そして、Aの運転する被害車両が少年のいた辺りを通り過ぎたので、少年は、口笛を吹いて自分の居場所を知らせ、被害車両に乗り込んでAと行動を共にした。その後、少年らは、浜松市○○町の○○橋上から、被害車両に積まれていた牛乳箱及び台車を川に投棄し、さらに、罪となるべき事実3(4)記載のとおり、他の車両からナンバープレートを窃取して、これを本件被害車両のものと付け替えた。

3  上記のとおり、実際に盗み出したのはAではあるが、少年は、本件車両の窃取について、Aから誘われ、これを了承して行動を共にしており、Aによる窃取後、被害車両に乗り込んでいる。

こうした事実の経過に照らすならば、少年も、Aが本件車両を窃取することについて、同人と意思の連絡があったものといえる。

従って、少年は、Aとともに本件車両の窃盗について共同正犯の責任を負う。

4  なお、少年はAが実際に盗んだので自分は責任を負わないと主張するが、上記の事情に照らして少年の主張は採用できない。

また、少年は、審判の際には、○○駅前でAに会った際に同人が車両窃取の意思を有していたことは聞かされず、破損した自己所有車両に所持品などを取りにいく際に、たまたま方向が同じだったので、本件犯行現場に至ったと供述している。

しかし、少年は、本件車両の窃取後、それまで乗っていた自転車を放棄して、被害車両に乗り込んでおり、また、Aが車両を物色する際も、付近に止まってその行動を見ている。そして、少年らが出会った○○駅南口から、少年の所有車両のある同市○○町に行くのに、本件犯行現場である浜松市○○町を通ると、かえって遠回りとなるのであって、少年の上記供述は合理性に欠ける。この点についての少年の説明は、曖昧なうえ内容も二転三転していて信用できない。

(処遇の理由)

1  本件1並びに3の(1)及び(2)は、いずれも同国人の成人らと深夜店舗で窃盗を働いたもので、1の窃盗の際には、3(3)で窃取した車両を使用しており、また、窃取した車両の発見を免れるために、3(4)のナンバープレートを窃取している。

また、少年らによる上記窃盗は、比較的短期間に行われたものであるが、回数、被害品の数ないし金額も多く、店舗への侵入窃盗はいずれも被害品を売却して金を得るために行ったものであり、その犯行の形態も店内の金品のほとんどを窃取するというもので、「店ごと盗む」というに等しい。

少年は、被害弁償について、共犯者と働いて責任を取るなどと供述しているが、少年及び日本在住の兄ともその資力に乏しいうえ、後記のとおり、少年の在留期間は本年10月16日に切れ、少年はブラジルに帰国するつもりでいる。

なお、本件被害品の多くは一応被害者に還付されたが、少年らが投棄したものや現金などは返還ないし弁償されておらず、また、還付された被害品には衣料品なども多数含まれており、これらは商品価値が減少しているものといえる。

2  本件2の非行は、少年は、ブラジルでも日本においても運転免許を受けたことがないにもかかわらず、普通乗用自動車を購入して乗り回し、友人と海水浴に行った帰り、交差点を時速約80キロメートルで進行した際、右折しようとした普通貨物自動車と衝突し、それぞれの車両を破損させたというものである。少年は、この事故の直後、無免許であることが発覚することを恐れ、相手方運転者に自己の外国人登録証を提示した後、現場を立ち去っている。

少年は、上記事故について自分には全く過失はないと主張しているが、無免許のうえ制限速度を超過して運転しており、その行為自体、悪質かつ危険であり、少年にも過失があるというべきである。

3  少年は、父母及び兄らと相前後して来日し、しばらくは浜松などの工場で働いていたが、父母が平成4年11月29日帰国し、監督する者がいなくなった後、生活が崩れ始め、本件当時は定職もなく、友人宅などを泊まり歩く生活をしていた。

少年は、上記所有車両を売却して帰国資金に充てようと考えていたが、上記交通事故で破損し、その計画が狂ったことから、自暴自棄となり、1などの成人との窃盗を繰り返していた。少年は、送致されたもののほか、静岡県焼津市においても、同様の窃盗をしていた。

4  少年は、前記のとおり、本年10月16日で在留期間が経過し、少年も帰国するつもりでいるが、ブラジルでは、日本で稼いだ金で数か月遊んで暮らし、本件等の日本での非行のほとぼりがさめた後、再び来日する意思でいる。

少年は、本件各非行の責任についても「ブラジルに帰国して暮らす。」などと答えているが、現実的な賠償についての考えはない。

5  以上に述べた本件各非行の内容、窃盗については被害品及び金額とも多額となること、本件2の交通事故も含め被害弁償がなされていないこと、少年の規範意識及び社会的責任感の乏しさ、少年の本件非行当時の生活態度、審判での態度並びに現在少年を日本において監督する者がいないこと(少年の兄が浜松に居住するが少年の監督は期待できない。)などの事情を総合すると、少年の健全育成を図るためには、相当の期間、矯正施設に収容して専門家による指導を受けさせることが必要と判断する。

この判断は、附添人の指摘する、少年の在留期間が数日後に経過すること、日本とブラジルとの国情の違い及び少年がブラジルでは特に問題行動が見られなかったなどの事情を考慮しても左右されるものではない。

すなわち、少年は、ブラジルに帰国後も再来日することを企図しており、その際も本件についての被害弁償の点は考慮されておらず、また、日本社会の規範を守って生きようとの姿勢も認めることができない。少年は、日本とブラジルとの貨幣価値の差を利用して、しばらくは日本で働いて、その金でしばらくブラジルで遊び暮らし、金がなくなれば日本に来るという生活を指向している。

そこで、少年をこのまま解放すれば、本年の在留期間経過とともに帰国するであろうが、数か月後には再び来日し、本件と同様、我が国において同種の非行を繰り返す蓋然性が高いというべきである。

従って、少年には矯正教育の実施が必要であり、その生活態度などからすると在宅処遇は不適切であり、少年が現在日本語をほとんど解さないことからして、指導には相当の日数を要するというべきである。

6  以上の次第で、少年法24条1項3号、少年審判規制37条1項を適用して、少年を中等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 松田浩養)

〔参考1〕 鑑別結果通知書〈省略〉

〔参考2〕 抗告審(東京高 平5(く)240号、平5.11.29抗告棄却〕

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年が提出した抗告申立書に記載されたとおりである。

所論は、要するに、少年を中等少年院に送致することとした原判決の処分は著しく不当である、というのである。

記録によれば、本件は、少年が、同国人の成人の共犯者と共に、3回にわたり夜間店舗に入りこんで店の商品等を盗みだし(原決定1、3(1)、(2)の事実)たり、自動車を窃取した(原決定3(3)の事実)うえ、更に、ナンパープレートを盗みだし(原決定3(4)の事実)、これを盗んだ自動車に取り付けたりし、また、運転免許を有しないのに自動車を購入して常習的に乗り回し、無免許運転中(原決定2の事実)、高速で走行し、右折車と衝突する交通事故を発生させたという事案である。

右各事犯のうち、とりわけ店舗からの窃盗の非行は、店の商品を、大部分といってよいほど大量に盗みだすなど極めて大胆で悪質なものであり、無免許運転の非行も前記のとおり甚だ危険な態様のものである。

少年は、日本で収入を得るため、母と共にブラジルから来日し、後に父も来日したが、両親が帰国してからは、生活が荒れ始め、不良交遊を重ね、入れ墨をしたりするようになり、無為徒食するうち本件各非行を重ねたもので、窃盗の各非行は成人の共犯者と共に犯したものであるが、必ずしも心ならずも犯行に誘い込まれたという訳ではなく、自己の自動車が前記交通事故により壊れた損害を取り返したいという気持ちもあって、次第に積極的に犯行に加わるようになったこと、帰国後も将来再び来日し、日本で就労して金銭を稼ぎたいという気持ちを抱いているものの、罪障感が稀薄で自己保身の傾向が強く、反省の態度も表面的なものであること、両親は帰国して日本におらず、その保護環境も不良であることなどを考えると、少年の教化改善のためには、相当期間施設に収容し、専門的な教育、訓練を受けさせる必要があると認められるから、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は相当であり、これが著しく不当であるとはいえない(なお、少年は、原決定3(3)の窃盗の事実については自分に責任がない、と主張するもののようであるが、右の点について、原決定が、「罪となるべき事実についての当裁判所の判断」の項において説示するところは正当としてこれを是認することができ、少年は、窃取の実行行為はしていないとはいえ、成人の共犯者と意思相通じて右非行をしたことが明らかであり、少年がこれについて共謀共同正犯の責任を免れないことに疑いはない。)。論旨は理由がない。

よって、少年法33条1項後段、少年審判規則50条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小林充 裁判官 中野保昭 小川正明)

〔参考3〕 抗告申立書中の抗告の趣旨欄翻訳文

この手紙を翻訳する人は、どうか慎重に翻訳してくれますように、お願いします!

私はAと一緒に、幾つもの店に侵入したり、盗みをはたらいたりしました。当時、私は失業中で、自分の車はぶつけてしまっており、荒れて、盗みを始めたころでした。(盗みは)私の重大な過失でした。また、お金を目当てに店に侵入したこと、お金が見つからなかったときには、商品を持ち出したことも認めます。審判の後、一年間の収容と知り、びっくりしました。一年に相当するほどのことをしたとは思えないのです。今回の審判で重視されているのは、ワゴン車を盗んだことと、パトカーとぶつかったことでしょう。Aがワゴン車を盗んだ日、私が共犯者だったことは認めます。でも、私は他人の分別のぶんまでの責任はなく、責任があるのは自らの分別のぶんだけです。私たちは正しいか間違っているかはわかります。それなりに大人なのですから。あの日、Aとはエキ(駅)の近くで会いました。彼の鞄は私の鞄や書類と同様、私の車の中にありました。それで、私たちは車の中にあるものを取りに行くことにしました。Aがパチンコ店で自転車をとったとき、私はすでに自転車を持っていました。それ(その時点)まで、車を盗むことには触れませんでした。それはAが初めて盗んだ車ではありません。途中で、彼は鍵がついたままであいているワゴン車を見つけました。彼は私を呼んで言いました。R、S、あのワゴン車は鍵がついたまま、あいている。自分はあれを盗もうと思う。私は、あなたは自分のしていることが分かっているのですか、とだけ言いました。彼は、落ち着け、心配することはない!と答えました。つまり、彼は子供ではなく、成人なのです。自分のやることを自覚すべきだったのです。彼が自分の責務を負っていないことが問題なのです。そして、一年間と裁判所が判定したので、私は明らかに迷惑を被っているのです。私たちは友人です。でも、(現在)起きていることに関しては、同意できません。8月27日の夜中の0時ころ、Aと一緒に○○の近くの友だちの家でコロナに乗りました。途中、警察が追跡し始めたとき、ハンドルを握っていたのは、残念ながら私です。警察を巻いてから、Aがハンドルを握りました。その後、Aは屈したがりませんでした。それより前に、警察のことを心配していたからです。彼は非常に恐がり、恐れていました。そして、○○付近で警察に進行を遮られたとき、彼は絶対屈伏するものか、と言っていました。私は、彼が屈伏し、それで終わりだろうと思っていました。ところが、彼はワゴン車をパトカーの後にはつけませんでした。丁度その時、一台のバイクが通って、ぶつかりそうになると、Aはバックし、捜査官の車にぶつかりました。私は彼がそんな馬鹿げたことができるなんて考えませんでした。Aと初めて会ったとき、彼は盗んだ車に乗っていましたが、警察のことを気にしてそれを手放しました。彼とワゴン車に乗ったとき、もし警察につかまったらどうなるのかと尋ねました。彼は、いずれにしてもワゴン車は自分の物だし、自分が全ての責任を負うと答えました。彼は(そう)言ったのです!

警察官が調書を作成しているとき、ワゴン車についての責任がないことを通訳者を通じて話したところ、通訳者と、その責任を負うのはAだろうから、私が心配する必要とないと言いました。店(複数)での盗難に関しては、私に責任があります。でも、車を盗んだこととパトカーとの出来事については、Aに全面的に責任があります。というのは、ハンドルを握っていたのは彼なのですから。捕まってから、私は自分のおかした過ちすべてを反省しました。そして、自分のしたことを償うべきだと思っています。でも、他の人がやった馬鹿げた行為についてまで償うように思えるのです。どうしてかというと、一年というのは、少々厳しすぎると思うからです。裁判官がこの誤りを認め、訂正してくれたらと思います。私の生活は国外にあり、ブラジルにいる家族との約束もあります。

私は、自分のしたことすべてを自覚しており、自分の過ちは認めますし、裁判所が出した結果も受け入れます。拘留はもうしばらくのことであって、一年ではないと思っていました。だから、裁判所の判定には納得がいかないのです。

再度のチャンスと法廷における審判を請求します。お願いです!

なぜなら、他の人たちと同様、私にも感情があり、異議があるのですから!

以上

敬具

R・S

〔編注〕 抗告申立書中、抗告の趣旨欄についてポルトガル語で記載されていたものを抗告審において翻訳したものである。

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